SEXのあこがれ
翌日、麻子は店に出ても、仕事が手にっかなかった。睡眠不足もあるが、知恵の狼の遠吠えのような声が耳から離れなかった。仲間に気分が悪いからと断わって、更衣室で伏せていると益雄が入ってきた。「あッ、店長」
立ち上がろうとする麻子を制しながら、益雄はいつになく優しい声で、
「昨夜はよく寝られなかったんだろう、いいから休んでいろよ」
と言うと、後ろから麻子の肩を抱いた。益雄は女店員にたいして、よくこんないたずらをした。いやがっていた女たちも、慣れたいまは、それが日常の挨拶のように感じるようになった。
しかし、今日のそれは明らかに違った。益雄の手は、麻子の胸に伸びてきた。
「今日は早く帰ってもいいぞ、そしてダンナとエッチしろよ、でないと、体がもたんだろう。フツフフ」
麻子は金縛りにあったように動けないでいた。益雄は両手で乳房を抱えると、麻子の首筋に唇を押し当てた。
益雄の熱い息を頼に感じたとき、キスをされると思った麻子は、頭の中で避けなければと思いながら、されるがままになっていた。
益雄に抱かれ、キスをされながら、麻子は昨夜の知恵を思った。
(このまま抱かれたら、知恵さんのように……困る!)
麻子はここが店の更衣室であることを忘れて、一瞬の夢に浸った。
「店長ーッ」
店からの益雄を叫ぷ声で、麻子の夢は被れた。
光次は家に帰っていた。長距離トラック運転手の光次は二勤一休で、今朝帰ったところだ。ベッドで寝入っている光次の脇に体を滑らせた麻子は、自分も裸になりながら、光次の股間をまさぐった。
二十一歳の光次と十八歳の麻子は、一昨年結婚したばかりである。光次は、麻子の中学の先輩。高校を中退してヨタっていた光次にナンバされ、中学時代から半ば通い同棲。卒業と同時に結婚した。
いわゆるヤンパパ、ヤンママである。早熟な麻子はそれまでに三人の男を知っていたが、好きになって抱かれたのは光次が初めて。勉強が嫌いな麻子は、もとから進学の意志がなく、このままヨタり続けるよりはという両方の親の勧めもあって結婚した。
麻子の実家の近くに借りたアパートが、二人の新居だった。光次はやさしかった。うるさいことは一切言わなかった。稼ぎもよく、麻子が働く必要はなかったのだが、家を空けることが多い光次を待つのがいやで、幼い子供が手を離せるようになると、実家に預けて、今のスーパーに働きに出た。
光次がいない休みは、一人でいるのもつまらないので、昔の仲間に誘われてよくディスコに行った。目が大きく、色が白く、派手な顔立ちをしている麻子はよくモテた。行くたびにナンバされるが、麻子は光次を裏切るようなことは一度もしていない。
「帰ったんか」
疲れているはずなのに光次のコックは、たちまち硬くなった。二人のセックスは、こんな形で始まることが多かった。朝のときも、昼のときもあった。ゆっくり時間をかけてというのではなく、衝動に駆られて抱き合うことがほとんどだった。
麻子が素っ裸になると、布団にもぐって光次のコックをくわえた。光次も麻子の腰を抱いて、股間に顔を埋めた。シックス・ナインが、二人の唯一の前戯らしい前戯だった。麻子は、もっといろんなことをしてもらいたかったが、仕事から帰って疲れている光次の体のことを思うと言い出せずに、いつものように麻子が上になった。
そして、例のごとくあっという間に終わった。光次は麻子に後始末をさせるど、すぐに軽い寝息を立てた。
(仕方ないわ)
汚れたティッシュを始末しながら、麻子は深いため息と共に欲求不満を飲み込んだ。目をつぶると益雄の唇の感触がよみがえってきた。男と、キスして抱かれたいと思ったのは初めてである。三十六歳の益雄ほ、十代の麻子にとっては好き嫌いの対象外である。
益雄を男として見たことは一度もなかった。そんな益雄に欲望を感じたのは、昨夜のことがあるからだ。昨夜の出来事は、麻子にとって、あまりにも衝撃的だった。光次とのセックスに快感がないわけではなかった。しかし今日もそうであったように、そんなに深いものではなかった。
身をよじるような快感を味わったことはもちろんのこと、光次に抱かれて麻子は声を発したことさえなかった。
光次もそんなものと思っているらしく、そんな麻子に不満たらしいことを言ったことは一度もなかった。
(しかし……)このまま本当のセックスの喜びを知らないで、一生を終わるとすれば、それはとても寂しいことのように思えた。セックスの喜びが、今よりもっと深いことを知った以上、麻子も一度は味わってみたかった。
いつか……。
その4/7へ続く
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